Art2009_02-04

山口小夜子山口小夜子

日本ファッション・ウイーク特別企画

東京ミッドタウンで世界的ファッションモデルの山口小夜子さんの上映会があると聞き、行ってきたわ!

実は幼い頃から小夜子ファンなの。

子供の頃、大好きな『ファッション通信』という番組を見ていた時、資生堂の「セルジュルタンス」のCMに登場した彼女に目を奪われ、その神秘的な美しさの虜になってしまったわ。天女は実在した・・・!それがピポ子の第一印象だったの。

悲しい事に小夜子姫は2007年、お月さまに還ってしまったけど、彼女が"スーパーモデル"と言う言葉を生み出した第一人者であり、日本の美を世界に知らしめたファッション・アイコンである事は間違いない。切れ長の瞳、白い肌、美しい直線を描く黒髪・・・美は不滅であると体現していたわ。

上映会当日は全国から小夜子信者が集結し、たった4回だけの上映という事も有り事前予約が必要だったのよ。運良くピポ子はチケットをゲット!大内順子さんを始めとするファッション業界関係者がわんさか集まって生前の小夜子姫を偲んでいたわ。40分くらいの上映だったけど、小夜子姫のインタビューやJ.P.ゴルチェを始めとする歴代のショウ、そして惜しまれる最後のショウの映像が次から次へと夢のように現われていったの。

鈴が鳴るような美しい声で彼女はこう言ってたわ。「洋服を纏う時、自分は無になる。その後は洋服がどう歩いてどう動けば美しく見えるか誘ってくれるから・・・」と。ファッションモデルはデザイナーの世界観を短いウォーキングの間でいかに伝えるかが勝負。己を無の状態にしつつ、洋服のメッセージを伝える・・・でも小夜子姫は服をより美しく魅せる為に、指先から髪の一房まで神経を張り巡らし空気さえ変えてしまっていたのよ。

イッセイ・ミヤケのショウで見せた躍動感溢れる見事なダンスウォーキングは、彼の独自の作品のラインの美しさを強調していたし未だに目に焼き付いているほど美しかった。小夜子姫はモデルという枠を超え"表現者"であると時を超えて理解出来たわ!

時たま見るファッション雑誌で、ただ上辺の可愛らしさやセクシーさに自己陶酔気味の若いモデルさんを見るとがっかりするのよね。デザイナーが命を込めて作った作品に命を吹き込み、その哲学を体現しなくてはいけないという難しく過酷な仕事であるにも関わらず、条件さえクリア出来れば誰もが出来るような錯覚を覚えさせてしまうから。

何にしても表現をするというのは全く同じ!生半可な事では出来ないもの!山口小夜子はその圧倒的な存在感、究極の美、儚さ、透明さを兼ね備えた努力の人だったに違いない。同じ日本人として本当に誇りに思うわ!もう彼女のような人は現われないだろうけど、今世でこうして彼女に出会えた事に感謝したい・・・もっともっと伝説になって下さい!

090211.jpgゴッドフリート・ヘルヴァイン

無意識のフィルターを外せ!

ゴッドフリート・ヘルヴァイン・・彼が描き出す世界には最初”ギョッ”とさせられてしまう。

初めてヘルヴァインの作品を見たのは10代の頃、アート専門店で見つけたポストカード集でなの。その後スコーピオンズのアルバムジャケットになったのを知ったわ。

血まみれの子供、顔面を包帯でグルグル巻きにされた男、顔面が変形してしまった女など一瞬目をそらしてしまいそうなものが多く、作品と言って良いのだろうかと考えさせられる”強制フィルター”が掛かりそうになけど、よくよく見ると作品のテーマの奥に人間臭いコミカルな部分が見え隠れして、彼の人間に対する深い愛情を感じたわ。

人って何か異形のものを見たり、醜いものを見たりすると目を背けちゃうわよね。気づかないふりをする=気を遣う事が美徳であると叩き込まれてきたから・・・。でもヘルヴァインの作品を見ていると、醜悪なもの、弱いものは光り輝き”個性”として存在しているのよ。

今改めて見てみてももの凄いエネルギーで溢れ、究極の美しささえ感じる事が出来るわ!ヘルヴァインはこういった醜く残虐性に富んだものを表現することで、人間や社会のどす黒い部分を露呈し強制フィルターを外させたのよ。そして、そこここに存在する美に気づかせたいのではないか・・・そんな気がしてならないの。

「AMAZORA」で表現したかった事も全く同じ事だからなのかもしれない。是非会って話したいアーティストの一人であることは確かね!

森ヒロコ森ヒロコ

個展 / 時間の記憶

久々に銀座の画廊を訪ねてみると、いつもの雰囲気とは異なり春めいた色で溢れていたわ。

開催していたのは「森ヒロコ」さんの個展"時間の記憶"。パステル、色鉛筆を使ったドローイングなど大きな作品から見逃してしまいそうな小さな作品まで多岐に渡っていたの。少女、猫、花のモチーフが多く、一見同じトーンかと思いきやドキッとする大胆さが垣間見えて面白い。

入口近くに展示されていたキャラメルの箱サイズの作品『暖ったかい友達』は、少女と猫が、友達の羊が提供してくれた毛で編まれたセーターでぬくぬくしているというとても愛くるしい図柄なの。全員笑顔なんだけど、少女の傍らに毛糸の玉が落ちているのもなかなか意味深。ちょっとブラックで素敵よね。

でも一番目を奪われたのは、『晩餐』!

草の王冠と葉っぱのレースを身に付けた少女が猫達と食事を楽しむ様が描かれているわ。ただ、テーブル上に上がり込んで魚の頭をかじっている猫達の表情はリアルで野生そのもの。猫達の凶暴な食いつき振りとは対照的な少女の大人しさ・・・自然界で戦い生き延びてきた者と甘んじてきた者の差を見せつけられた気がする。その他にも昆虫を纏った少女や治療用のパッドを身につけた天使などドキッとする作品が多かったわ。

こちらのコーナーは色合いが緑基調の抑え目であるのに対し、反対側の展示は色が鮮やか。殆どが花と子供達の組合せで、今展の代表作『5月のバラ』は抜けるような青空に美しく咲くバラが描かれているの。ただここに登場する少女達は明らかに喪服・・・このコントラストが見事に悲しさと美しさを混在させていているのよね。

森さんの作品を見ていると、鉛筆の持つ独特の美しさを再認識させられるわ。筆圧によって変わっていく色の深さ、偶然出来上がったグラデーション、人間の手で生み出すものはこれ程迄に暖かく美しいのね。しかしその美しさを更に際立たせる為には、毒というスパイスも忘れてはいけないのかも・・・ふふふ。

松岡美術館松岡美術館

美人の館、白金台のエルミタージュ編

東京、白金台を散歩中に素敵な建物を発見したわ。

一見歴史的な洋館なんだけど、近づいてみるとかなりモダン。入り口には「松岡美術館」という文字が!こんな住宅街に隠れ家的な美術館があるなんてビックリよ。しかも開催されているのは『美人画展ー麗しの女性美を求めてー』という興味深いタイトル・・・入らないわけにはいかない!

平日の昼間のせいか、ご年配の方や着物姿の奥様達の姿がちらほらしているだけなので落ち着いて鑑賞できたわ。現代美術の展示室では、エミリオ・グレコやヘンリー・ムーアの母性たっぷりの巨大彫刻に圧倒!取り囲まれていると自分が母体回帰したような気分になったの。

その隣の古代オリエント美術では、エジプトで発見された”彩色木棺”の色合いの美しさに驚かされたの。赤や緑の発色が素晴らしく発掘されたようには思えない・・・ただじっと見ているうちに背筋がぞっとしてきてその場を早く離れたい気持ちに駆られたわ。きっと棺の持ち主の念がこもっているのね。

奥に展示されていた王妃”エネヘイ像”は、かなり現代的なデザインで体型も現代人のよう・・・美的センスに関してはやはりエジプトは進んでいると実感したわ。逃げるように展示室を出てから、2階にあるメインの日本画展示室へ。ここでは美しく繊細なタッチで描かれた美人が勢揃い!昭和11年に描かれた上村松園の「春宵」は下女に耳打ちされた芸奴が描かれてるのだけど、その細やかな美しさと艶っぽさに完敗よ。何かを企む下女の思惑に美しい芸奴は何を思うのか・・・思わず見とれてしまったわ。

他にも見所は満載で書ききれないけど、庭はどの展示品よりも芸術的!全面ガラスの向こうに広がる緑の世界は、緻密に計算されながらで遊び心満載の美しさよ!天気の良い日は室内のベンチに腰掛け何時間でも居たいくらいだわ。でもこれだけの美しいものに出会ってしまうと、まるで自分もその美しいエネルギーを得られたような気分よ。”美”は感覚を研ぎ澄まし、潤わせるための特効薬なのね。美しいものを求める皆さん、是非この空間で癒やされてみては・・・?

Art Review

2009 2-4
山口小夜子 / 日本ファッション・ウイーク
ゴッドフリート・ヘルヴァイン / ポストカード
森ヒロコ / 時間の記憶
松岡美術館 / 東京・白金台

Art Review TOP PAGE