三島由紀夫
「女神」
美の崇拝者の末路
小説を読む時「ええ!?何でここでこんな所を掘り下げて書いてるんだろう?」と思う代表選手は三島由紀夫。
そのこだわりがとても面白くたまに癪に障る事がある。氏の短編小説の中でお気に入りは「女神」。
ある男が自分の妻を完璧な美の化身に作り上げたが事故でその美貌を失ってしまう。次の彼の美の代弁者は娘になり、今度こそ思い描く通りの作品として完成するかと思いきや、そこに現れた不完全な男が美しき作品達を「女」に変えてしまった・・・。
完璧を求める余り美を失ってしまう父。不完全故に自虐的のそして完璧な美を求める男。美を求められるあまりその幻影と戦う妻。完璧故に不完全を求める娘・・・この四者の美を巡る生き様が生々しく描かれていて、大変面白い!
翻弄される男性達の愛の表現が母性をくすぐるものであったり、女としての残酷さをくすぐるものだったり・・グッとくるものがあるわ。
もしも舞台化されて、ピポ子が演じていいと云われたら「不完全な男」をやってみたいなあ・・・ライブでやろうかしら・・・。
谷崎潤一郎
「痴人の愛」
妖婦は気合いだ!
鞄の中にはいつもぼろぼろの文庫本が入っているの。
それは「痴人の愛」よ!言わずと知れた谷崎潤一郎の代表作だけど、何回読んでも面白い。
これが大正時代に書かれたものだとは信じられないくらいのハイカラさだわ。
描写がとにかく細かくて、ファッション雑誌を広げたようにこの時代の流行や文化が分かるのも楽しい。生真面目なサラリーマンが13歳年下の少女を自分好みに育てるつもりが天性の妖婦である彼女に翻弄されてしまうというストーリーなのだけど、この少女・ナオミはピポ子の憧れなの。
自由奔放で人に流されず強い!美しさだけで男性を翻弄する女性はいるけれど、彼女は自分に正直に己の人生を楽しんでいるわ。ある意味気合いが入った生き様だわね。
ピポ子も見習って現代のナオミになるべく・・・気合いだけでも・・・ううむ。
遠藤徹
「姉飼」
残酷さの中の慈しみ
「ずっと姉が欲しかった。姉を飼うのが夢だった」
こんな冒頭から始まる遠藤徹氏の小説「姉飼」どことなく淫靡な印象を受けるけど、読み終えた後に物悲しくなってしまったわ。
あらすじは、脂祭りの夜少年は縁日で初めて「姉」を見たの。姉は串刺しにされぎゃあぎゃあと泣きわめき、近づく者があれば鋭い歯で肉を食いちぎる・・・まさに格好の見せ物よ。
でもそれ以来少年は姉に魅せられ、成人後危険を冒して念願の姉を飼うことに!それから彼はグロテスクな姉を讃美し奉仕をするのだけど、彼女を看取る時には恋人とも家族とも思える「慈しむ」心が生まれて来たの・・・でもその感情は麻薬のように作用し次の「姉」を求めることに・・・。
描写は残酷ではあるけれど独自の背景や設定に納得させられてしまい、ぐいぐい遠藤ワールドに引き込まれてしまう!人間は美しいもの以上に醜いものに目が奪われるし、恐怖と憎しみの延長上に愛情があるわ。
まさに人間の相反する部分を剥き出しにした作品よ!!ただ余りにも味付けが濃いので心して味わってみてね!!!
恒川光太郎
「夜市」
幻想と現実の狭間
恒川光太郎氏「夜市」この本を読んだ時ピポ子はしまったと思ったわ!ピポ子が考えてたアイディアに近かったから・・・。
ホラー大賞と受賞した作品だけど内容はとても切ないものなの。
「夜市」では何でも手に入る。但し買い物をしなければ生きて帰れない。主人公祐司は小学生の時弟と市に紛れ込み、野球の才能と引き換えに弟を売ってしまう。
元の世界に戻り甲子園に出場する程の活躍をするものの弟を見殺しにした罪悪感と簡易的な才能に嫌気がさし、再び夜市に訪れ弟を買い戻そうとするが実は弟も訪れていたのだった・・といったお話なのだけど、登場する市の描写が面白い!
頭から植物を生やす少女がクスリを売ったり、棺桶屋に死者が群がったり、人攫いの店には生気のない子供たちが・・・。
文字を追う毎に映像が浮かんで来るわ!!でも読み終えた時に、自分が今まで生きこれから生きていく理由を考えてしまう・・・心の奥底にゴトッと大きな石を投じる作品よ。
ピポ子が夜市を訪れたとしたら何を買うかしら・・・まずは・・・。