遠藤徹
「弁頭屋」
感電するほどの愛
想像を絶する世界観で日本ホラー大賞を受賞し、鮮烈なデビューを飾った遠藤徹氏の第2弾「弁頭屋」。
これまた異様な遠藤ワールド炸裂なんだけど、タイトルの作品ではなく3本目に収録されている「カデンツァ」は更にきてるわ!カデンツァとは、独奏楽器がオーケストラの伴奏も伴わず自由に即興的な演奏する部分を指すのだけど、この作品はまさにその通り。ずっと即興しっ放しよ!
ストーリーは、結婚3年目の夫婦に離婚の危機が訪れたの。理由は奥さんの不倫の上の妊娠・・・よくある話よね。でも相手は家の'炊飯器'だった!ギャグじゃないわよ!シリアスなのよ!次第にご主人も家の奥にしまわれていたホットプレートに恋してしまい、やがて家電と人間との愛と憎悪が渦巻いて・・・といった内容よ。
あ、だからカデンツァなのか。いやいや・・・文字にすると何だかおかしいなあ。主題は「無償の愛」に違いないわ。相手が人間であれ物であれ、お互いを思いやり愛する気持ちを持つべきだという事を表現したかったんだと思う。
ピポ子は住んでいた土地、住居、捨ててしまった服や道具に強い「思い」を残す性質なの。別れる際その時の思い出を振り返り、泣いてしまう事が多いわ・・・。そんな経験がある方がこの物語を読めばきっとギャグには思えないはず。
心が暖かくなりたい方にオススメよ!でも他の作品は・・・ちょっときつく感じる方が多い・・・かもね。
桐野夏生
「残虐記」
腐女子は歓喜する!?
久しぶりに本屋に行ったら、ピポ子の目線の先に気になる本が・・・。
タイトルは「残虐記」。
人間のブラックさを描かせたら超一級の桐野夏生さんの作品よ。こりゃ面白そう!と思い、中も見ずにレジに向かったわ。内容は、幼い少女が精神薄弱の青年に誘拐され監禁されるの。少女は救出されて数年後、この事件をモチーフにした小説にして発表し失踪・・・でも真実は依然闇の中というものよ。
'劇中小説'では、犯人の青年が同僚の男性との愛を取り戻す為に少女を誘拐したという奇妙な設定で、ボーイズラブ好きの腐女子が大興奮する筋書きになってるの。恐らく少女は性的暴行は受けなかった・・・でも性を受け入れられないまま成長し、思考だけが大人になってしまった故にこういう物語を描き出したのではないかしら。
即興音楽の様に突如現れるストーリーはド肝を抜かれるけど、それが自然に流れていく・・・桐野嬢はすごいアレンジャーかも。
とにもかくにも見事なのは、匂ってくる様な人間描写!少女をとりまく人間たちの侮蔑と同情と好奇、犯罪を犯してしまった青年の孤独と愛が、読んでいくうちに映像としてポンポン浮かんでくるの。
ここまで読み手を引きずり回しておいておきながら、結末は幾通りのカードを用意して、めいめいに想像させる・・・ああ、なんて憎らしい!まさに残虐といえるわね!!
桐生夏生
「グロテスク」
女である事への執着
本屋に行くと、新刊とか話題作の棚には目が行かないピポ子だけど、当時文庫化して山積みになっていた桐生夏生氏の「グロテスク」という小説を上下巻大人買い。
帯の「誰よりも美しくて醜い私の妹」というコピーが決め手となったわ。本を買う時、いつも内容を予想し裏切られるのだけど(当たり前よね)今回は不思議と的中よ!きっと女性心理を深くえぐってる作品だからなのかも・・・。
--物語はこうよ--
有名女子高に通っていた凡庸な主人公の「わたし」は、怪物的な美貌を持つ妹ユリコとクラスメートの和恵が亡くなった事を知るの。二人とも同じ場所で同じ方法で殺されたわ。なぜこんな事件が起きてしまったのかを検証していくのだけど、その背景に己の「美」に翻弄された女、「美」に対して異常なまでの執着をもった女と、「美」を得られないばかりに依代を求めた女の渦巻く欲望と悲しみが克明に描かれているの。
女が女でいる事の明と暗・・・いつまでも美しくありたい<男性に愛されたい<自分という存在を認めてもらいたい、そんな方程式が全編通して成り立っているわ。
ああ、何だかお腹にズンと来る思いテーマだこと・・・。この作品を読んでいや〜な気分になる人、客観的に見てなるほどと思う人、果たしてあなたはどちらかしら?
因みにピポ子は、どーんと重い気分になっちゃったわ・・・。
パール・バック
「大地」
わらしべ長者、心も成り上がり
皆さんは、どんな気分の時に本を読む?
ピポ子はやる気を出したい時が多いわ。
お薦めはパール・バック「大地」。宇宙高校生の時からの愛読書よ。
中国の貧しい農民・王龍が奴隷の女性・阿蘭を妻に迎えてから次々と転機が訪れるというサクセスストーリーなのだけど、多額のお金を手にした事で起こる欲、人間関係の歪み、悲しさが凝縮されていてとても面白いの。
貧しい時は知恵と工夫で乗り切り、家族のチームワークも良く愛情があったけれど、裕福になると怠惰で自己中心的になり、内面より外見に愛情を見いだすようになってゆく・・・人間社会で当たり前のように繰り返される話ね。
長編小説で、1巻は王龍の話だけど2巻以降は彼の息子たちの話へと続いているわ。でも最も面白いのは土台を作った1巻かなあ・・・。
人間は貧しくともそこから努力して上昇していこうという時が一番輝いている時なのかもしれない。或る域に到達したら、別の生き方を見つける努力をする・・・それが人間のエネルギー源であり、今世の課題に違いないわ。