Book2007_10

img01e957e0zikbzj.jpeg清水正
「日野日出志を読む」

母胎回帰

ピポ子がこの世で最も尊敬する、元祖ホラー漫画家日野日出志先生の作品について著者の漫画論を述べたものよ。グロテスク、おどろおどろしい・・・絵のタッチだけで気味悪がられてしまう作品ばかりだけど、去年の丁度今頃日野先生の個展でご本人に偶然お会いしてから、作品の奥深くに眠るテーマについて考え始めたの。

この本はそんなピポ子にとって刺激的!しかもピポ子が読んだ事のない作品について取り上げられてるから得した気分よ。中でも特に気になったのは「水の中」。魚好きの少年が事故に遭い酷いケガを負って、母の世話なしには生きられなくなってしまうの。

父も亡くなり、経済的に切迫した家計を支えるべく母は水商売を始めたわ。最初は少年の世話を焼き優しかった母が、次第に"女"へと変化し少年に辛く当たるようになるのよ。ある夜母は男と一緒に帰ってきたものの、朝になると男の姿はなく冷たくなった母の姿だけが・・・。

少年はやっと自分の元に帰ってきた母の側で嬉しそうに添い寝をするのよ。近所の人が姿が見えない親子を心配して警察を呼ぶも、そこに二人の姿はなかったの。あらすじだけでも泣けてきちゃった・・・。

清水氏曰く『日野作品はオイディプス的願望が色濃く出ている』と論じているけど、ピポ子もその考えには同感!少年は母と一体化したかったに違いないわ。男性の殆どは深層心理の中でそう思っているはず。だからあれだけ大事にしていた母が水商売の為美しくなるのは少年にとって裏切り行為であり、男達と関係を持たれるくらいなら死して自分の元に戻ってきた事が喜びだったに違いないわ。

少年の部屋にある水槽は母胎回帰の現れであり、少年は再び母の羊水の中に帰っていったのかも・・・。ひとつ言わせて頂くけど、ここまで人間の奥底をえぐる漫画家は日本にはいない!また泣けてきちゃったわ・・・。

img18fbcf50zikczj.jpeg三島由紀夫
「午後の曳航」

雄の性

短編の中でも幾つかお薦めがあるけど、ピポ子の愛読書は「午後の曳航」

内容はこうよ。
船好きの聡明な少年は、老舗の洋装店を経営する母と二人暮らし。そんなある日大好きな船の案内をしてもらった船乗りが母と恋に落ち、結婚すると言い出したの。少年は二人の夜の姿を盗み見た時から、大好きな母、憧れていた船乗りが色褪せていく様に絶望し、自分がこれから大人になる事で同様に堕落していくと危惧感を感じてある決断をするの!

その決断はかなり衝撃的なのでここではお話しない事にするわ。

このストーリーはとにかくお気に入りで、出来る事なら将来ライブでやりたいくらい!この作品が昭和38年に発表されていたなんて恐ろしや恐ろしや・・・。相も変わらず独特な描写はお見事で、いらっとしちゃうわ。

特に感心したのは、母親が再婚相手である船乗りの身辺調査の報告書を友人に電話で報告する場面よ。「そうなのよ。・・・・ええ・・・・ええ、そう」とセリフの様な書き方になっていて、いかに彼女がこの報告を興奮して伝えているかがよくわかるの。

そして結婚の報告をしようと2人が少年に話す場面では、いつまでも子供だと思い込んでいる少年に気を遣う大人たちと、浅はかな大人の考えを嘲笑しつつも子供を演じてみせる少年のすれ違いの感情が完璧に描かれてるわ。

少年は母親を女として認識した瞬間、既に1人の男性になっていたのね。

ううむ、このディープな世界にあなたも是非1歩踏み込んで見られては如何でしょうか・・・。

imge387ee35zik7zj.jpeg石原 加受子
「邪悪な人を痛快に打ちのめす!」

精神的バイブル

本屋の棚に、面白いタイトルの本を発見したわ。
「邪悪な人を痛快に打ちのめす!」

表紙の可愛らしい女の子のイラストからは一見カジュアルな印象を受けるけど、中を開けると心理学カウンセラーがこれまで関わってきた人物の症例と解決法、更に文末にワンポイントまとめが書かれていて読みやすいの。

読み進めていくうちに「ああ、こんな人と会ったなあ」「こんな風に考えられてたら失敗しなかったのに・・・」と反省したり気付かせてもらう事が沢山出てくるわ。辞典の様に使う事も出来るのよ。

自分は何も出来ていないから発言する権利はない、無理してでも努力するのが当たり前、ちょっとでもプライベートで自分がしたい事をすると、罪悪感を感じて心から楽しめない・・・そして揚げ句の果てには自分をがんじがらめにして心をすり減らす。そんな経験は無い?

著者はこの本でそういった人達を'善人'と呼んでいるわ。そして'邪悪'というのは、自分が常に一番だと思っている傲慢な人の事で、弱い者をいじめ地位や力のあるもののみ認め、孤立しても屁とも思わない人物を指すの。

著者曰く『この世の中は邪悪な人だらけ。でも自分を大切にしない善人は悪人と同罪だ。』

なるほど・・・まずは自分を大事にする事が邪悪に立ち向かっていく第一歩なのね。人間は感情の動物だから何事も聞き流すと言うのは訓練が必要だけど、精神的肉体的に健康でいたいと思うならまず自分を可愛がる所から始めよう・・・!

Book Review

2007 10-11
清水正 / 日野日出志を読む
三島由紀夫 / 午後の曳航
石原 加受子 / 邪悪な人を痛快に打ちのめす!

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