Book Review 2009 01

090108.jpg恒川光太郎
「神家没落」

自由という名の不自由

脳にゆっくり染み込んで行く様な言葉を紡ぐ作家といえば"恒川光太郎"。その彼の作品「神家没落」を夕方の喫茶店で楽しんだわ。

ある青年が一軒の古風な家を発見し、そこに住む翁の面を付けた老人に声を掛けられるの。その男が言うには、この家は特殊で数百年も守っている神域で、代々継承者が選ばれて役目を継ぐのだそう。しかし自分が解放される歳になっても誰も交代に来なかったが、やっとその役目を担う人物が現われたと。

そう老人は青年に告げると灰と化してしまい、青年が新しい主に就任したのよ。

青年は困り果てたものの家から出る事叶わず、いつしかつつましやかな家の生活に慣れ健康的な日々を送っていたの。家は不思議な事に決まった場所に移動し、その先々で家の到着を待つ人、食料を差し入れてくれる人等が現われたわ。やがて青年は次の主になる人間を見つけたけど、その人物は殺人犯だった・・・!というお話なの。

結局青年は現代社会に戻ってから、不自由な世界が実は自由で楽しく、自由であったはずの世界が自分を拘束していたという事に気付くのよ。そして己の過ちに気付き家を探すの!"住めば都"という言葉があるけれどそういった"妥協"ではなく、彼が究極のスローライフから得た感覚は"悟り"に近かったのかもしれない。

人間日々忙しくしていると感情的になったり余裕が無くなってくるけど、ちょっとでも振り返る時間を作る事が出来ればリセットしやすいものね。この物語を読むにつれ、生きる時間が同じなのであれば少しでも楽しく有意義に過ごすべきだと諭された気がして、何だかホッとしたわ。お正月も終わり仕事が山積みのあなた・・・オススメ!

090116.jpg野村潤一郎
「Dr野村の猫に関する100問100答」

母の心で自分を見つめ直し

ピポ子家には猫が沢山いるのよ。みんな訳ありの猫たちで子猫の時に虐待されりとかで人間不信だったりとか、病弱だったりとかとか・・・。最長老は推定16歳の通称「大御所」。前足を幼少の頃に踏みつぶされたようで変形していて爪のメンテナンスが大変なのよ。そんな時に、以前ご紹介した個性派獣医、野村潤一郎先生の著者「Dr野村の猫に関する100問100答」を読んだわ!

いや~タイトル通り質問形式で書かれているのだけど、短編集を読んでいるみたいで面白い。野村先生は書店に多く見られる、無難な話題に終始する内容、飼い主を不安にさせるだけの医学知識等で綴られた動物本とは一線を画した本作りを目指されたそうなのだけど、実に他と差別化された、温度の伝わってくる"熱い本"に仕上がってるわ!

本文のイラストも、先生自身が仕事の合間に描かれた作品で構成されいて実にユニーク・・いや多才ですな。100問も質問があると中には『何でこんな質問してくるの?』という内容のものもあるけど、一刀両断回答でテンポ良く解決してくれるわ。文中で先生の幼少時代、人間も動物も分け隔てなく路地裏等で遊んでいたのに今はそういった触れ合いが無いため『何か言葉だけが空しく綺麗になって、やっている事は汚くなっている気がする』と書かれていた章があるの。全くその通りだと思うわ!

特に最近は親が過剰になり、動物にちょっとでもケガをさせられたらすぐ保健所に連絡なんてパターンが多いみたいだし、昔は誰々さん家の猫ちゃん、何処何処のワンちゃんと、町内で家族同然に動物の存在も大きかったけど、今ではお隣同士も知らない有り様ですものね。こういった本をきっかけに、更に町中の人達が野良ちゃん達に"母の気持ち"で接してもらえるようになったら素敵だわ。ニャッニャーン!

Book Review

2009 1
恒川光太郎 / 神家没落
野村潤一郎 / Dr.野村の猫に関する100問100答

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