Movie2009_08

090919.jpgデリカテッセン

極上ブラックを売る店

ロストチルドレン」「アメリ」と立て続けにピポ子の五感を揺さぶる逸作を突きつけた、ジャン・ピエール・ジュネ監督の1991年の作品「デリカテッセン」!

毎回思うことだけど、ジュネ監督の頭の中は膨大なスケッチ画が存在し、目には特殊なフィルターが装着されているのでは・・と思うくらいの独特の質感を出してくるのよね。絵の具を絞り出して描いた粘着力のあるトーンというか・・小粋な暗さがとにかくたまらない!

出演者も皆カリカチュアで描いた絵のような個性的な人ばかり・・主人公の青年を演じたドミニク・ピノンを始め、1度見たら脳裏に焼き付く実力派揃いよ。

舞台は核戦争15年後の荒廃したパリ。この土地に唯一存在する精肉屋(デリカテッセン)の上にあるアパートに、元ピエロの青年が移り住んでくるの。精肉屋を営む店主、そしてアクの強い住人たちに囲まれ青年の新生活が始まったわ。けれど、食べるものさえままならない状況であるのに、何故この店では肉が売られているのか・・というお話よ。

内容がかなりブラックであるけれど、描き方がカラッとしているのでユーモアたっぷり。時代背景の説明もあまりないまま進行するところも心憎いわ。見所は満載過ぎるほど満載なんだけど、音に対する表現はかなりの見物よ。

ベットのスプリングの軋みをベースにチェロ音が加わり、そのあとは布団たたきの音・・と生活音が重なり合いセッションするシーンは圧巻!ポスターが半分めくれてたり、石けん置きの汚れ具合などの細かいディテールも行き届いていてたまりません。ジュネ劇場開演~!!・・もう誰にも止められない。

090927.jpgムッソリーニとお茶を

ありがとう!おばさま!

1999年イタリア映画「ムッソリーニとお茶を」を見ると、文化や芸術という意味を今一度考えさせられるわ。

芸術とは皮肉なもの・・ダビンチにしろモーツァルトにしろ王家という絶対権力の庇護の元で開花し伝承され今も息づいている。やがて王家には名誉だけが残り、実態経済は豪商に移行。そして、芸術もまたメディチ家を筆頭に文化としてパトロネージュされ数多くのアーティストが軌跡を残しているの。

芸術は悪用されるケースも多い。ベルリン・フィルとヒトラーの関係等、芸術一辺倒の生活が時代に翻弄されるリスクもあったの。反対にピカソの“ゲルニカ”のように1枚の絵が世界を行脚し政治にプレッシャーをかける事もあるわ。

そしてこの「ムッソリーニとお茶を」は、当時ファシスト党のムッソリーニが自分をアピールする材料として、文化・芸術を利用した経緯を、シニカルな象徴としてピックアップし作品の時代色を際立たせた力作よ。決してムッソリーニのお話ではないの。4人のミドル女性を中心展開するたくましいコメディ・ドラマなの!

時代は1930年代。ムッソリーニが40年に英仏両国に宣戦布告する前後のイタリア動乱期のお話。1935年、フィレンツェの芸術的環境に憧れるイギリス出身の3人(マギー・スミス/ジョーン・プローライト/ジュディ・デンチ)の誇り高きレディが、身寄りのない男の子を立派なイギリス紳士に育てようと決意するの。そこにアメリカ人ショーガールで富豪との結婚をくり返す女性(シェール)が加わりスポンサーになるけど、ナチスの台頭によりイギリスはイタリアの敵国となり、彼女達も強制収容所暮らしとなってしまう・・。

物語はこの少年の目から見た4人の女性の生き方にスポットをあてたドラマとなっていて、戦闘の場面や直接的な反戦へのメッセージは殆ど無いわ。戦争が勃発しても祖国に帰らず自分達をイタリアの一部として友好関係を保とうという姿勢を保ち続けた主人公たちの姿に、監督であり、この少年自身であるフランコ・ゼフィレッリの感謝の思いが強く込められているの。結果、それが平和を愛するメッセージにつながっているの。

“人を育てる”とは今で言うプロデュース能力に相当するわ。よく、『プロデューサー業で一番重要な資質は何ですか』と尋ねられるのよね。『それはお金』と答えてしまいそうだけど、実はどこまで世話を焼けるかが重要なの。この作品は、その世話焼き度がとてもコミカルに描かれている。また、資金担当はアメリカ人、教育担当はイギリス人というのも世相を表現していて楽しめるわ。

ちなみに、当時のイギリスのレディ達が師と仰いでいたのが、「アンナと王様」で有名なアンナなの。意志の強さや自分の存在価値に確固たる自信を持ち、それをライフスタイルとしていた象徴的な存在だった彼女。もしかしたら、現代の女性の強さにも通じる部分があるかもしれない。

見どころは、何と言ってもスミスやデンチ他の強力なアカデミー女優の演技力。イギリス女性とアメリカ女性の生き方に対する対比をとても素直に演じているのよ。

芸術をこよなく愛する女性がテーマとあって、ファッションや風景も実に凝っているわ。トスカーナ地方“花の都”のフィレンツェから“美しい塔の都”のサンジミニャーノや古都フィエーゾレを背景に、さりげなく登場するフレスコ画や彫刻等の美術品、19世紀風のイギリス婦人のスタイルからモダンなドレスや斬新なパンツスタイルと、見逃せないシーンも多いの!

「ムッソリーニとお茶を」は、芸術をこよなく愛し、どのような状況下でも自分達のスタイルを貫き通した女性達を通して、個人の存在がいかに今に連続し、未来へとリンクして行くのかを気軽に見せてくれたわ。女性的要素が強く出ているけどオールラウンドで味わえる秀作よ!

ちなみに、タイトルの「ムッソリーニとお茶を」とは、ファシズムが台頭し外国人たちの生活に危害を及ぼすようになったため、外国人居住区のレディがムッソリーニに直談判しに行き、彼に英国流のお茶でもてなされた、というエピソードがベースだそうよ。

090905.jpg僕らのミライへ逆回転

初心忘れるべからず

大好きなジャック・ブラックが出演している2008年映画「僕らのミライへ逆回転」は、パンチはないけど実にハートフルな作品よ! 自分自身とリンクする部分が多くて、見ているうちに懐かしいようなジーンとくるような思いがしてきたわ。

物語は老朽化したレンタルビデオ店が舞台よ。そこに勤める真面目な店員のマイクは、ジャックブラック演じる悪友ジェリーに手を焼いてばかり。ジェリーはある日発電所に侵入して体が帯電してしまい、その磁気で店内のビデオテープの映像を全て消去させてしまうの!

慌てたマイクは何とかしようと奔走するも良い手が見つからない。どうせレンタルに来る客はオリジナル作品を見ていないから・・と、ジェリーを誘って自分たちで作品をリメイクしてレンタルしたところ大評判になり、やがてレンタル店には長蛇の列が・・というお話よ。

相も変わらず顔中の筋肉を巧みに使って演じるジャックは、素晴らしい存在感!そして「ゴーストバスターズ」「2001年宇宙の旅」「ロボコップ」などを段ボールで細工したり、映像をポジネガ反転させたり、ファンを回して昔の映画のような質感に仕上げたりと、その創意工夫ぶりには脱帽よ。

今は機材も進化して様々な事が簡単に表現出来るけど、アイディアを出し合い手間暇かけて挑戦しようという情熱は大事なのよね・・。オリジナルを超えた自分たちの作品を作り上げ、小さな田舎町でも「何かを成し遂げてやろう」という意気込みを持つ主人公達の姿に、初心を思い出し何だか胸が熱くなったわ。暑さでいまいちやる気の出ないあなた、この作品で奮起してみてはいかが?

G.I.ジョーG.I.ジョー

特殊娯楽部隊

「G.I.ジョー」の完成披露上映会にお邪魔。

G.I.ジョーと言えば、マテル社のバービー人形のヒット後に男児向けとして60年代に発売された兵隊人形よね。その後もTVアニメとしても何年か放映されていた作品なんだけど、今回の映画はその流れをくむ作品のようだわ。

さて、ピポ子はこの手の特殊部隊がガンガンと交戦しまくる映画は見る機会が少ないのよね。ただ「G.I.ジョー」に関してはTVアニメがベーシックにあるので、特に物語が云々とか、俳優の演技力が云々とかの作品ではないと思って、単純にCGを駆使した娯楽アクション大作という視点で拝見させてもらったの。

物語は人類に福音をもたらす夢の化学物質(ナノマイト)が武器商人によって最悪の化学兵器に変貌し、それを争奪した闇のテロリスト集団「コブラ」によって世界が危機に・・・それを阻止すべく極秘のスペシャリスト軍団「G.I.ジョー」との戦いが始まる!といった感じなのよ。

「トランスフォーマー」と「ハムナプトラ」のスタッフによる作品なのだけど、見事に両作品のテイストが満載されていた事に驚いたわ。ネガティブな言い方で表現するなら「トランスフォーマー」の動きがそのまま「G.I.ジョー」のキャラのキーフレームに引用されてるように感じてしまったり、壮大な舞台背景ながら世界観を感じる事ができなかったりと、随所に甘さを感じてしまうのが残念。

絵的な構成は「STAR WARS」その他の代表的SF作品のアクション場面を抜き出したような感じで、オマージュと言えばオマージュだし、そのままと言えばそのままだし・・・。北米マーケットの若年層をターゲットにリピート率を稼ぐという目的ならこれでいいのかも。お話の中に東京やパリが出てくるのだけど、相変わらず日本と中国文化がミックスされたような妙な景色は、逆に日本のPR不足が原因!?とも思ってしまうわよ。

いずれにしても、理屈抜きでアクション大好き、コンバット系大好き、小道具大好き、な人達には充分に楽しめる作品かも。この分野が好きな人は是非劇場へ!ドドーン!

Movie Review

2009 8-9
デリカテッセン
ムッソリーニとお茶を
僕らのミライへ逆回転
G.I.ジョー

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