Movie2009_12

091220.jpgEyes Wide Shut

最後のラビリンス

かのスタンリー・キューブリックの遺作となってしまった1999年の作品「Eyes Wide Shut」をじっくりと拝見。物語はニューヨークに住む内科医(T・クルーズ)とその妻(N・キッドマン)のお話よ。夫は妻の精神的浮気の告白を聞き、今まで感じたことのない嫉妬心と妄想を抱いて街をさまようの。そのうち、ふとしたことがキッカケで、淫靡な集会の扉をくぐるのだった・・というものよ。

その前に、USACOのプロデューサー(通称ぼっちゃま)がキューブリックマニアなので、彼に簡単にキューブリックを語ってもらう事にするわ。

(ぼっちゃまの手短解説)
彼は映画界だけではなく、直接的にも間接的にも各分野のクリエイターに多大な影響を与えてるね。キューブリック青年は17才の時にルック誌に写真が売れてから、ルック誌でカメラマンとして働きながらコロンビア大に通いつつ映像を学ぶんだ。人生の大半をイギリスの田舎で過ごしていたようだよ。スチール写真の影響でドキュメンタリー作品からスタートした映画人生、彼がメジャーになるキッカケになったのがカーク・ダグラス。

キューブリック初の大作「Paths of Glory -突撃-」に主演したダグラスは「スパルタカス」出演時に最初の監督が降板したさいキューブリックを後任監督に指名。

1960年代の米のTVや映画はピュアーな恋愛が中心のいたってノーマルな世界。そんな時に「ロリータ」を発表し世間をかき乱す。あの時代に現代のユウツを描写してしまったのだね。そして「博士の異常な愛情」で究極の恋心!?を導き出し第一幕が終る。

第2幕は今世紀を代表する傑作「2001年宇宙の旅」、キューブリックは精神世界へと見るものを誘い「時計じかけのオレンジ」「シャイニング」で暗転となる。

しばらくこの暗転は続くのだった。

7年後、突然幕が上がる。「フルメタル・ジャケット」 それは戦争映画だった”フルメタル・ジャケット”とは軍が標準装備する弾丸の名称で、人間の体を貫通するタマなのだ。冷たく光る”フルメタル・ジャケット”の鈍い輝きに恐怖が映り込む。第三幕のテーマは?と悩む暇もなく突然また暗闇に・・。

12年後、最終幕が上がり始めたがそこにキューブリックの姿はなかった。置き手紙のようにフィルムを一つ残して・・。

『キューブリックは映画界の神様でしたから絶対に近づくことができない存在でした』と関係者が語った。そんな彼を支えてきたのがワーナー・ブラザース・ピクチャーズ社。「時計じかけのオレンジ」以来25年以上キューブリックを支援、制作費を提供すると同時にいかなる無理な注文にも答えていたそうだ。

「フルメタル・ジャケット」の場合はイギリスの自宅近くに東南アジアを再現するセットを作り、「シャイニング」では空撮が必要な場合でもコロラド州にいる撮影スタッフにロンドンから無線で指示を送るなどしてイギリスを離れる事はほとんど無かった。スタジオに行く時でも自宅から車で時速50キロ以下で運転させるなど、イギリスの田舎に完全に自分が管理できる世界を構築していたんだ。

芸術に関しては決して譲らないキューブリック。ワーナーも制作に関しての全ての権限を彼に与え、見せてもらえるのは完成品だけで、意見の出しようなどないのだ。また、同じシーンを100回以上取り直しさせても俳優達は一切文句を言わない。

遺作となった「Eyes Wide Shut」は当時夫妻だったキッドマンとクルーズが本能的に異常で危険な心理学者を演じるスリラー作品。スタッフは小規模ながら70億円の予算で制作、ワン・シーン60テイクも撮るなど(19ヶ月間も撮影していた)、最後まで完全主義を貫いた。

イタリア人監督ロベルト・ベニーニは『キューブリックはフェリーニやカフカのように私たちに夢を与えてくれ、物語の楽しさを教えてくれた』と・・・。

完全主義者と称されるキューブリック、『私には安っぽく思われるこの言葉を、私を攻撃するために用いるのはいかにもジャーナリスト的だ。我々は何かを創ろうと試みる時、それが最良のモノとなる事を望む。私は時間も金も浪費する訳ではない。良いモノを創りたいだけなのだ』と語っていた。

映画を芸術の域に高めたキューブリック。時代はまだキューブリックに追いつけないね。そして、彼の脳裏にあった映像には誰も近づけないのかもしれないかも・・。

以上、ぼっちゃまでした。と言うことで、「Eyes Wide Shut」に戻るわね。

ジャケットやタイトルから想像するに、期待?欲望?謎?・・と人間の煩悩がめくるめくよう。本編を見終わって思うのは、全てはキューブリックの計算通りなのかも!?という事よ。普段の生活で人が考えたくない“欲望”“SEX”“嫉妬”“強迫観念”を追及した洗練された作品だわ。この嫉妬と強迫観念に苦しむ男をテーマに、人間臭く、個人的で、そして楽観的に2時間半の時が刻まれるのよ。

映像的には“エロティック”という言葉を、そのものでなくアート的な感覚でコーティングした美しさがあるわね。色彩的な構図は言わずもがな。ピアノの単音だけで聴かせる効果音には驚愕よ!キューブリックの才能が遺憾なく発揮されている今作、是非愛する人とご鑑賞あれ。

一度見ただけでは「Eyes Wide Shut」の奥が見えないわ・・。キューブリックが見る者に問いかけた最後のラビリンスよ。もう彼の映画が見れないのはとても残念ね。

“THE END キューブリックよ永遠に”


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091211.jpgアマデウス

凡庸の頂点

アカデミー賞8部門他数々の賞を受賞した、1984年の映画「アマデウス」。

公開当時、ファルコというアーティストがこの作品にインスパイアされて『ロックミーアマデウス』という曲を作ったのだけど、そのPVも曲もどこかコミカルで不気味だったわ。案の定、映画もその通りのイメージなので更にビックリよ。

時は1823年ウィーン・・年老いた宮廷作曲家サリエリが、天才作曲家モーツァルトの才能を妬み殺害したと告白するスタイルで物語が始まるの。サリエリは努力して宮廷作曲家としての地位を確立したけど、モーツァルトは幼少から天才作曲家として注目を浴び続ける。遂に共に同じ土俵で勝負に立つ事になり、サリエリはモーツァルトの天才的な感性や発想、技術を見せつけられ、自身がいかに"凡庸"であるかと思い知らされたの。そこで彼はモーツァルトに殺意を抱くのよ。

今でこそ人と比較することではないけれど、ひとつの表現しか許されない時代、アーティストとしてこれほどショックで恐ろしい事はないわね。

告白の最後で、サリエリは自分を「凡庸の頂点」と言っていたのが衝撃だったわ。

今作ではアマデウスとその妻が自由で現代的に描かれていたのが新鮮。その対比で、F・エイブラハム演じるサリエリの繊細で濃厚な演技がずっしりと核になっていて素晴らしかった!

仕事への情熱、嫉妬の苦しみ、狂気にも似た己との葛藤・・その感情の移り変わる様はサリエリが憑依したのかと思うほどよ。ラストのシーンで、車椅子で運ばれながら精神病棟の患者達に向かい「凡庸なものたちよ・・」と声をかけるシーンは絶品!

しかしながら、この時代誰もが初見が出来るという事が別の驚きのツボね。

サリエリがモーツァルトのオペラの譜面を一見してへなへなと倒れ込むのだけど、ピポ子的には、その大所帯の譜面を見て完成体が理解できるサリエリも恐ろしいわよ。様々な表現方法を自由に発表できる現代、こんな素晴らしい時代だからこそ甘んじることなく後世に残せる作品を作らなくては。まだ見ていない方は是非どうぞ!  

『凡庸よ、さらば・・!』

091206.jpgコラテラル

闇と夜明け

2004年にトム・クルーズが悪役を演じて話題作だった「コラテラル」。監督はリアリスティックな表現で男の世界を映像化するマイケル・マンよ。「ヒート」や「インサイダー」などの作品で有名ね。

舞台はロス、日没から翌朝までの出来事を、殺し屋(クルーズ)とタクシー運転手(ジェイミー・フォックス)の関係を心理描写を巧みに絡めながら物語は進んでいくのよ。

ピポ子的には前回の「ゴッドファーザー」のように、男系映画は先入観があってあまり見る機会がなかったけど、最近面白さが分かってきたのかもしれないわ。この作品も、仕事として淡々と殺しをしていくクルーズが時に寂しく、むなしく、空虚にも思えるけど、背景的に知的な世界観や哲学を持ってるから、どこか悟り的な部分を多く感じたのよね。

相反する小さな夢を追いかけていたら、殺し屋ツアーに捲き込まれてしまったフォックス演じる運転手・・・自分の人物像を淡々と分析されキレてしまうも、結局逃れようとせずに従属的に(コラテラル)流されてしまう自分の弱さ。この二人の対照的でありながらどこか同穴的な共通点の描き方はお見事。それを見事に演じきるクルーズとフォックスは素晴らしすぎるわ。

映画はフィルム・ノワール的な行き場のない閉塞感を、色味やBGM、台詞にちりばめ、マイケル・マンが得意とするロスの風景を背景に世間では何事もなかったように時間だけが過ぎ、それを夜明けとラッピングさせながらシミが消されていくかのように人の虚無感を表現しているの。

悪役のクルーズもかっこいい拳銃使いではなく実践的な銃さばきで、この作品のためにトレーニングしているのだなと感心していまったわ。そして何と言ってもジェイミー・フォックス!

フォックスは同年のアカデミー賞で「レイ」の主演男優賞を受賞して、この「コラテラル」でも助演男優賞にノミネートされてたのね。それにしても、彼は出る作品の選出感覚が素晴らしい!最近でも「ドリームガールズ」「路上のソリスト」とか秀作ばかりなのね。これも彼の強みかもしれないわ。

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Eyes Wide Shut
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