Movie2008_05

img1468de0ezikezj.jpeg「カポーティ」

冷血になれない洒落者

今興味を持っている作家、トルーマン・カポーティの自伝的映画「カポーティ」。

丁度彼の作品『叶えられた祈り』を読み始めようと思っていた矢先だったので、自分勝手なイメージを描いていたの・・・でもピポ子が思い描いた通りの色合いだったわ!

内容は、1959年にアメリカ中西部の田舎町で一家4人が惨殺されるという事件に興味を抱いたカポーティが、6年掛りの取材の後『冷血』という作品を書き上げるまでの、ドキュメンタリータッチの作品なの。

彼はホモセクシャルで衣服にこだわるお洒落さんで、ボソボソと話をするけど話し上手で強烈な印象の持ち主。しかも記憶力が良く、インタビューの内容の殆どを暗記出来たというのだから驚きよ。でも彼自身の根底にある"人間臭さ"が犯人達や周囲の人間の心を動かしたお陰で良い取材が出来たのだと思うわ。

カポーティは自分の欠点をわかっていながら直そうとはしない、つまり人に媚びないの。常に自分本位で、"イヤな面"を表に出したがるけど実に素直で憎めないわ。彼の理解者である女性作家は、カポーティが上等のスーツを見せびらかしても無視するし、犯人の死刑の日が決まりふさぎ込む彼に「彼らに死んで欲しいんでしょ?」と彼が一番欲しい答えをくれる。彼が成功した陰には、こういう素晴らしいパートナーが存在してたからなのね・・・。

取材をすすめるうちに犯人に親近感を覚えるカポーティ・・・でもかれがこの本を出版させる為には彼らが死刑という結末を迎えないといけない。『冷血』というタイトルは犯人にではなくカポーティが自戒の意味で付けたのでは・・・と思わずにはいられないわ。

でもこの映画でカポーティという人物に対してどんどん興味が湧いてきたけど、彼を演じたフィリップ・シーモア・ホフマンの演技はどう言葉で表したら良いか・・・分からない!

"細胞クラスで演技をする名優"とでもいうべきかしら。天才・・・いえ、そんな凡庸な呼称の枠を超えた、ハイ超えました。内容が内容だけに様々な解釈が出来る作品だと思うのだけど、見事に"人間の心の微妙な色加減"が表現されて、静かに圧倒されたわ!とにかく凄い。言うことなし!

imge0f4b3abzik3zj.jpeg「アンドリューNDR114」

200年越しの愛

ロボット三原則で有名なアイザック・アシモフの小説"バイセンテニアル・マン"を原作に製作されたヒューマン近未来SF「アンドリューNDR114」

以前このブログで紹介した「バードケージ」で主演していたロビン・ウィリアムが、主役のロボット、アンドリューを演じるというので楽しみにしてたの。ストーリーは王道だったけど、彼の演技の素晴らしさが際立った素晴らしい作品だったわ!

舞台は近未来・・・NDR114と呼ばれる家事用ロボットを購入した一家は最初扱いに戸惑っていたけど、やがて人間的な感情や創造性に富んだ個性的なロボットに家族的愛情を持つようになったの。特に一番下の娘はロボットを"アンドリュー"と名付け全幅の信頼を寄せるようになり、アンドリューも彼女を"リトル・ミス"と呼び友情を深めていったわ。

やがて時は流れ、アンドリューはリトル・ミスの結婚や主人の臨終などを経験し、自分自身の自由を求め仲間を探しに旅に出る事にしたの。そこで彼の生みの親であるロボット技師の孫と出会い、人間に近づけるように体の改造に取り掛かったわ。

外見は完璧な人間になったアンドリュー・・・やがてリトル・ミスの孫娘と恋に落ち、共に生きたいと思う強い気持ちから不老不死の体を捨て、"本物の人間"になるというお話なの。オープニングで、機械の部品をアレンジし工場のような流れでキャストを紹介している映像は凝っていて素晴らしいけど、やはり見どころはアンドリューの金属製の体から人間のボディに至るまでの動き、表情かしら!

金属ボディの時は被ってるのか貼り付けているのか、あまりにも良く出来ていて分からない。でも"自己"を持つ前と後の表情や感情の変化がバッチリ伝わるから、演技力と技術力の勝利と言うべきね!ブラボー!人間は"限りある生命"というものに不安や悲哀を抱きがちだけど、"期限"がある事で人間は努力するし、美しく有意義な時間を送れるのよね・・・作品を見終わって改めて考えさせられたわ。

変な話だけど、ピポ子は昔から自分の最期の時を思い描く癖があって、それは臨終の時「やり残した事がないな、よし!」と今までの人生に納得し、宇佐子を抱きかかえて逝くという図なのよ。だからこそ、今やりたい事を後悔の無いようにすべてやり切らなくちゃいけないと日々思えるわ!最期に「しまった、あれをやっておくべきだった〜」という事態は避けたいものね。

やはり、おやつは食べておこう・・・。

img290a743czik7zj.jpeg「アンブレイカブル」

第六感からの脱却、ギリギリの対極

映画「シックス・センス」で脚光を浴びた、M・ナイト・シャラマン監督の2作目「アンブレイカブル」。ストーリーも、サミュエル・L・ジャクソンの演技も素晴らしかったわ・・・でも引っかかる部分があったのも確かね。

物語はB・ウィリス演じる父親が列車事故に遭遇し唯一の生存者となるの。彼は以前から事故に巻き込まれてもケガひとつ負わない己の体を不審に思いつつ、愛する妻と息子と静かに暮らしていたわ。そんな時、サミュエル演じる漫画コレクターギャラリーの黒人オーナーがコンタクトをとってきたの。彼は骨形成不全症という難病に冒されていて幼い頃から漫画にのめり込み、その世界に学び、自分の様に脆い肉体の対極には不滅の肉体が存在すると確信し探していたのよ。そしてようやく見つけた該当者が父親で、その力を漫画のヒーロー同様弱者を救う為に使うべきだと言い出したの。

最初はオーナーを変人扱いしていた父親だけど、自分が人に触れるだけで相手の行動が見えるテレパス能力や恐ろしいほどの腕力を持っている事に気付き、自分の使命を全うしようとするの。でも彼は恐ろしい事実を知ってしまう・・・という筋書きよ。

なかなかドキドキする内容だけど、ピポ子が一番感心したのは画面の構成ね。列車の席の合間、クローゼット上部、背景は固定されている中で役者が演技をする・・・一種監視カメラ的な感覚だけど、実に絵のように見事な構図になっているし、役者の演技も光るわ。最も見事だったのは、ブラウン管のテレビモニターに映り込んだ影のような幼少時代のオーナーと母親の姿だけで会話するシーン。

留まった世界で表現すると言う事は本当に難しいわ・・・でもきちんと出来れば、観客に瞬時にそのシーンの背景、人物の関係、空気感が伝えられる!偶然、ピポ子もPODCASTの新シリーズの動画も同じ手法をとっていたのだけど、理由は全く同じ。監督とは気が合いそうだわ!

でもただひとつ惜しかったのは、親子愛を誇張し過ぎた所かしら・・・見ていて「イラッ」とする事が何度もあったのよ。前作の流れをひきずっていたのかもしれないわね、それが残念。

人間は常に自分にないものに対して憧れを抱き続けるわ。自分にないからこそ崇高で美しいものだったりするんだろうけど、時として手に入らず憎いと思う時も有る。こうして人間は常に対極の気持ちを持ち合わせているんだけど、それを自分が納得する為にどうコントロールするか・・・もしくは激情に身を任せるのか・・・あなたならどちらを選ぶ?

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2008 5
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