Book2008_02

080208.jpg三島由紀夫
「禁色」

退廃的美学

ベスト・オブ・三島由紀夫といえば・・・「禁色」!

文庫本で580ページという大作だけど、購入当時あまりの面白さに2日で読んじゃったの。でも1回読んだくらいでは消化不良よ。何度も何度も読み返していくうちに独特の味わいを楽しめる、そうスルメイカ効果で飽きる事がないわ。

ピポ子が思うに、三島作品の面白い所は読者に対して"挑戦的"であるという部分なのよね。特にこの「禁色」ではその気迫が伝わってきたわ。ここまでの大作を突きつけられては負けを認めてもいいかも・・・。

内容は簡単に言ってしまうと、ある醜く老いた著名な作家が絶世の美青年を使って自分を欺いた女性に報復していく・・・というお話なんだけど、とにかく登場人物全員の背景が深くて深くてどこから読んでも満腹状態。自分の老いと醜悪さに嫌気を感じつつ美を求め続ける老作家、己の中の本質に気付いていく自己愛の強い美青年、美青年を愛するあまり子供の様な振る舞いをする元侯爵と彼と固い友情で結ばれたその妻、夫の本質に気付きつつも強く成長していく美青年の新妻・・・ちょっと取り上げただけでもかなり濃いでしょう?

この作品のテーマは「老いと美への執着」だと思うわ。

三島作品の殆どは美に対して呪いのような執念を感じるのだけど、それは彼自身の追い求めてきた人生のテーマだからなのかも・・・。男でも女でも美しい人は美しい、でもそれは"時間"という条件がついているからこそ成立するものであり、美しさは汚れていく過程で更に研ぎ澄まされていくのかもしれない。

本編の中の女性は必ずひどい目に遭うけれど、最終的に自分の行くべき方向を見極められる、精神的に"自立した"人ばかりなのよね。これって女性に対する三島風エールなのか・・・それとも償いなのかしら。彼自身の思想をふまえた上で更に想像、いや妄想は膨らんでいくわ。

昭和26年にこの作品に初めて触れた初代腐女子達は、一体何を感じたのかしら・・・。今日の写真に写っている本の表紙は海外版のものよ。作品の内容を見事に表しているから、こちらの方が好みだなあ。

080329.jpg秋田雨雀
「童話・太陽と花園」

日本への警鐘

古本市で一目惚れして購入した「童話・太陽と花園」。iTunesでリリースしている「赤い実」の作曲中、自分の世界観は童話的要素が強いなと実感して、最近童話を読みだしたの。以前このブログでも紹介させてもらったけど、童話って本当に深くて重くて...怖いわね。

この本は、大正10年に秋田雨雀という人が書いた作品なんだけど、かなりキョーレツ!

大正時代にこんなに内容の濃い本が出版されていたとは驚きよ。内容も然る事ながら、まず目を奪われたのは本の装丁の美しさ。菊の花の間からお釈迦様のようなポーズで現れる子供が独特の罫線で彩られ、手作り感満載よ。

表紙の色合いも原色は用いられず、微妙な赤茶色がメインでアクセントに金が使われていてすごく粋なの。昔はこんなにも個性的な本が売られていたなんて本当にお洒落な時代だったのね。

そして本文に入る前の書き出しにこうあったのよ!「童話は大人に読ませるのではなく、『大人が大人自身の子供の性質』に読ませるものである。」・・・ピポ子が大人になって童話に魅かれる要因はそこだったのね!!

人間は年を経る毎に"子供の部分の容量"はどんどん減少していくわ。最も無垢で重要なその部分があればこそ、大人として飛躍出来る・・・言わば跳び箱のジャンプ台的な役割ではなのかしらね。これだけ感性の鋭い人物が描くストーリーは、"ド"がつくくらいシニカルよ!

同タイトルの「太陽と花園」では、父から土地を受け継いだだけの無力な男が、畑に何を植えていいか分からず人の意見ばかりを受け入れ、結局は何の成果も出せずに途方に暮れるという話なのだけど、最後にその一部始終を見ていた太陽が『人間というのはどうして自分自身の考えを尊ばないんだろうね』と言うのよ。どこかで聞いた話じゃない?そう、現代の日本でも全く同じ事が言えるわ。

やはり昔からこの"流され性質"は少しも変わっていないのかしら・・・かなりの危機感を覚えるわ。

まだまだ身につまされる話が満載で、現代用に復刻してもらいたいくらいよ。さらっと皮肉っておきながらどーんと心の奥に突き刺さる、この発想力と表現力に敬意を表しつつ、必ずやピポ子版"ネオ童話"を作ってみせるわ!!

080306.jpg池田理代子
「短編集3」

心をえぐる衝動

子供の頃読んだ漫画を大人になってから読むと、感じ方が全く違うと思った事は無い?

ピポ子が漫画好きのきっかけとなった"池田理代子先生"の作品はすべてそう思えるの!特に「クロディーヌ・・・!」という作品は心にずっしり訴えるものが有ったわ。

今から30年も前に描かれたのだけど、"トランスセクシャル"を題材にしたものなのよ。今でこそ世間の性同一性障害への認識は高まっているけどこの時代に取り上げるというのはかなりの気合いだったと思うわ。ある裕福な家庭に生まれたクロディーヌは敬愛する父に習い、勉学、教養すべてパーフェクトで聡明な女の子なの。ただ自分が女性であるという事に違和感を抱いていたので常に男性的な身なりや振る舞いをしていたわ。

そんなある日、彼女は新しく来たメイドの女の子に恋を・・・でもその恋は母によって阻止され、カウンセリングを受けるという結果に。その後大学生になったクロディーヌは運命的な恋をし遂にその恋は実るのだけど、愛しい人は彼女の兄と結ばれる事になってしまったの。精神的な繋がりは肉体を超えると思っていたのに・・・クロディーヌの悲しみは深く、ある決断をする事にしたのよ。

表面だけで読むと一見ドロドロしていて昼ドラも真っ青な展開になってるけど、心と体のバランスが取れずに苦しみながらも心から"人を愛する"クロディーヌの生き様には一点の曇りもない。読んでいくうち、自分はここまで人を愛する事が果たして出来るだろうかと自問自答してしまうわ。

エンディングで、精神科医は彼女の記録にこう書き込んでいるの。

「真の男性でさえ、かくは深くひとりの女性を愛せなかったであろう」偏見と戦い自分と戦い、溢れる愛を人に与えるクロディーヌ。彼女はこの世に遣わされた天使そのものかもしれない・・・そう思えるのは自分が大人になったからかしらん。タイトルの「・・・!」という部分に作者のそんな強い意思を感じずにはいられないピポ子でありました。

080218.jpgグリム童話

極ブラック!

最近コンビニで読みきりの極厚漫画を見かけるわ。そのタイトルは「残酷!グリム童話」とか「大人の為の童話」なんていうものばかり・・・。

実はピポ子、幼い頃から童話が大好きで、本を読んでは自分で勝手に話を作って母に聞かせていたのよ。でも先日偶然家で「グリム童話集2巻」を発見し早速読み返しちゃった。

小さい頃読んで意味不明な部分が多い話ばかりかったけど、大人になった今読んでも不明な点は多いわ。でもその分自分の想像力を膨らます事が出来るから楽しい。何が面白いって、まず登場人物がラインナップが強力なの!死神、腸詰め、梨、箒・・・絶対思いつかないわよ!!しかもどの話も、複雑な家庭事情、あっと驚く突飛な展開、そして何本に1回かは人を殺して食べてしまうという残虐シーンが登場するのだからびっくりよね。

あっけないほど不思議な事件が起き、あっけないほど人が死に「童話」と呼ぶにはあまりにもシュールで、明らかに子供向けではないわ。つまらない推理小説を読むより段違いに面白いもの。

中でもピポ子が好きな話は、息子の首をちょん切った母が自分の罪を隠す為に息子を刻んで夕飯の材料にしそれを夫に食べさせるというお話よ。

息子は鳥になり歌いながら母親の犯罪を訴え、最終的に母親を殺すの。ちょっとぞっとする内容だけど、30数年前の対訳のせいか文全体がぎこちなくて逆に滑稽に思えるの!全編何の脈絡もない物語がてんこ盛りだけど、どの話も心に影を射すのは何故かしら・・・。AMAZORAの世界もこんな風に皆さんの心に黒いシミを落とせるようにしたいなあ・・・キキキッ。

Book Review

2008 2-3
三島由紀夫 / 禁色
秋田雨雀 / 童話・太陽と花園
池田理代子 / 短編集3
グリム童話

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